プリンセス・トヨトミ

プリンセス・トヨトミ

万城目学

ネタバレあります。あしからず。

映画を先に見ました。その後小説を。

父から子へ、また父から子へ。

営々と受け継がれてきた大阪国の歴史。

その中でこの親子を襲った現実はなんと残酷なんだろう。

 

原作では女性の旭ですが、映画では岡田将生さんです。



ヒール込みで180センチオーバー、ハーフ顔の女優さんなんて思いつかないから、男性に変更したんでしょうか。



しかし、岡田将生さんって最近全く同じ会計検査院の職員役やってたような。そういう役似あいますよね。



で、男三人もなんなんでってことでしょうか、映画では鳥居が女性です。綾瀬はるかさんもコメディな役ピッタリでした。

実は大阪夏の陣直後から豊臣の子孫を見守るために存在していた秘密結社が明治維新を機に新政府と結んだ密約。



その密約を根拠に受けている補助金をきっかけに主人公松平たちは大阪国にふみこんでしまうわけです。



この辺のことには原作だと歴代総理なんかも絡んできて壮大な陰謀論的内容が展開されるのですが、映画ではそこまで触れられてはいません。



署名蘭に大隈重信の名前があったのには?と思いました。



戊申戦争直前位の段階で、大隈って西郷と並んで署名する程の立場にいたんだろうか?



調べてみたらその年に外国局判事って役職についてはいるようですが…

この物語のキモは、大阪国の存在理由。



それはまさに親子、この物語の場合は父と子のつながりなわけです。



そして、現大阪国総理大臣の子、大輔くんは女装願望がある男の子なんですね。



坊主頭でセーラー服を着てる子。

 

 もちろんそれだけでは彼が同性愛者なのか、たんなる女装趣味なのかまではわかりません。



 趣味は女装だけど女の子好き、なんて人もいらっしゃいますし。



小説中でも男の子が好きかまではまだわからない、という様な風に書かれています。



けどまぁ人前でも男の恰好することが苦痛とまでなると性同一性障害と言われるものなのかもしれません。



この言い方キライだけども。



とすれば、大輔くんには子どもはできないわけで、そこで真田家の大阪国での歴史は終わっちゃうんですよね。



その継承こそが、大切な何か、であるのに。

普通に考えたら大輔くんとプリンセス・トヨトミがくっつくでも、身を引いて見守るでもいいわけで、せっかくお父さんが戦って認めさせた大阪国の一員として生きていかせることもできたでしょう。



それならスッキリ終われる。



なのに万城目さんは物語を、大団円の中で実は暗い予兆で終わってるんですね。



あくまでも、個人の幸せどうこうではなく、大阪国の一員としてのですが。



何しろ大阪国は父から子へ受け継がれてゆく物語なのですから。



大輔くんには受け継がせる子どもができない。



将来その悲哀を味わわねばならない予感。

 



それでも、ちゃこちゃんと大輔くんは2人、セーラー服姿で学校へ走ります。

 

 きっとたくさんつらい思い、普通の人なら経験しなくて済む性質の、をするでしょう。



それでも、あんなお父さんやちゃこちゃん、じゃこ屋(原作のみ登場)が隣にいる大輔くんがうらやましくもありました。

デンデラ

デンデラ

佐藤友哉

新潮文庫

6/25に公開される同名映画の原作です。



先日「星を追う子ども」を見た時に予告見て記憶にあったので、本屋で見かけて即購入、一晩で読んでしまいました。久しぶりに一冊丸々一気に読んだ。睡眠時間削って一片の悔い無し。おもしろかったです。

内容の前に、帯に載ってる映画の中の浅丘ルリ子さんについて。



大変申し訳ないですが過去の作品等をよく存じ上げず、たまにテレビに出てらっしゃるのを見ては「若いころはキレイだったんだろうけど、今じゃ…」と思ってました。



 でも、この写真の浅丘さんはとても魅力的だと思った。とても美しいおばあさんだ。可愛すぎて主人公・ユカの感じに合うのか心配な位。



普段のあの醜悪な化粧なんて脱ぎ捨ててしまえばいいのに。



なんで誰もそう指摘してあげないんだろう。大女優さんに誰も言えないのかなとも思ったけど、それがあの方のスタイルだとしたら、それはそれで他人がどうこう言うことでもないのかもしれないですが。 

 

 一冊丸々、久しぶりの過剰感でした。

 

 血、臓物、死、死、死、そして死。

 

 そもそものっけから姥捨ての風習です。



その後もひっそりと生き残った老婆たちを圧倒的な暴力が襲い続けます。

偉大な猛獣と戦うってとこからか、子どものころ読んだ「ひとりぼっちのロビンフッド思い出したりしました。



内容は全然関係ないんですけどね。

しかし、これ、段々と老婆という設定を忘れる。というかちょっと無理があるような。10代、20代の様な躍動っぷりにはちょっと違和感がないでもありません。



少なくともぼくのばあさんは2人とも姥捨ての段階で逝くと思うんだけど。



何しろ平均年齢80.58歳(解説より)、最高齢100歳だよ。



無人の山でたった1人から30年生き抜いて、人口50人の村を作るようなビッグボスみたいな人なら普通に村でも有益で捨てられない気がするんだが…



作中にも、姥捨てのルールを変更する描写ありますし。



この作者は男性で女性だけの社会を描いてるんだけど、女性の目から見るとデンデラの中の女社会はリアリティあるんだろうか。ちょっとそれ聞いてみたいなぁと思いました。

星を追う子ども

星を追う子ども




新海誠







 これは少女が走る映画だ。

 とにかく走る、走る。







これは人がモノを食う映画だ。

 アニメでこれほど食べる音の描写が生々しいのって初めて見た。




 

 そして、これは、自分がどれだけ擦れてしまったかをつきつけられる映画だ。

 見た人の世代によってかなり感じ方がちがうんじゃないかな。

 




そこに描かれた成長物語や、命への愛情は永遠の命を持つものだから、新しさがあるかと言えばそれはない。

けれど、丁寧に描かれているからしっかり伝わってはくる。もし自分に子どもがいたら一度は見せたいと思える映画でした。

 

 

 ただ、大人はどうだろう。

 押井風にいえば「結局スホーイの亡霊から誰も逃れられない」ということなのかもしれない。

 

 とにかく見たことあるような風景、見たことあるようなモンスター、見たことあるような、見たことあるような、見たことあるような…

 

 つまりこれはあれとあれとあれとあれから持ってきて再構成したものだよね?と言いたくなってしまうんですね。

 

 それがどれなのかは見てもらえるとすぐわかると思います。

 

 




 最近そういうことが多い。

 

 新作映画のCMを見ても、特にハリウッドのは、要はあれとこれをくっつけてそれ風にした様なもんかな、と思ってしまって、ワクワクしないことがあるんです。

 

 そう考えた後、自分の中の子どもの部分が乾いてしまったような気がして悲しくなる。

 いや、ぼくの場合、まだまだ子ども過多なので、その子どもが大人の皮をかぶった様な、どうしようもない小面憎い感じを自分に対して持つ。

 

 これは、なんともまずいと思う。どうにか子どもの部分に水をやらないと、化けの皮をはがさないと、つまらない中高年になりそう。

 

 こういう、感想を書くって作業も、もしかしたらその一環でやってるのかもしれない。

 作品を見て何かを感じるのは子どもの部分で、それを文章化するのは大人の部分だろうから。

 

 その点からいえば、この作品は子どもの部分の完敗で、大人な部分の感想ばかりになってしまいました。




 でもきっと、スホーイをまだ知らない子どもたちには新しい世紀のスホーイになりうる作品かもしれません。

ぼくの体はツーアウト

ぼくの体はツーアウト

よしたに



集英社

 やっと買いました。

 よしたにさんの新刊、「ぼくの体はツーアウト」!

 

 ツイッターによると今日5/29は秋葉かどっかでサイン会あってたらしいんですが、普通に渋谷で買いました。

 

 カラーで1000円弱は安い!のかよくわからんがってかカラーである必要あるんだろうか…

 オタクネタはよくわからないとこ多かった。

 理系は友達の顔が浮かんでおもしろかった・

 そして今回のは!わが身につまされて笑わせてもらいました。

 そう、ぼくもいつの間にやら30手前のメタボ男子。

 全然他人事じゃない。

 実際、去年の夏に血液検査した時、肝臓系の数値がちょっと悪かったみたいだし…

 帰省中に血液検査したもんで、東京戻る日の都合でそのまま放置になってるんだけど。

まぁ前の日飲んで検査行ったからじゃね?ってことで片付けてる自分大丈夫か?

だってお酒日常的に飲む習慣も無いし、煙草もやらないし、要は痩せろってだけだし…それが重要なんだが。

今回の本(企画?)ではよしたにさんがいろいろな健康法やグッズ試してるんだけど、一番の疑問は…

よしたにさん、理系なのになんで疑わん??」

ってことでした。

俺は足ツボ好きです。痛いけど、痛いけど、気持ちいい。

でも、あの、「ここが痛かったらあそこの調子が悪い」みたいのに科学的根拠があるとは思えない。ただ、気持ちいいけど。

直腸洗浄も確か危険あるんじゃなかったっけか?

せっかく理系なよしたにさん。その辺つっこみまくってくれたらおもしろかったのになぁ。

 「全然感じない!」みたいなコメントが大人の事情と理系のプライドの妥協点なんだろうか。

 とりあえず取り入れられそうなのは食物繊維の錠剤を持ち歩くってとこかなぁ。

あと炭水化物の取りすぎに気をつけよう。って本の紹介じゃなくなってきてるな。

「お酒で無くしたもの」の話はめちゃめちゃ共感してしまったぼく。

お酒のせいで無くしたものって換金可能なものだけで、15万じゃきかない気がする。

いや、大事なのは無くしてしまったプライスレスなものたちだよね…

そんな中でもまだぼくと飲んでくれてるそこのあなた。

感謝します!(コ・ミナム風に)



でもよしたにさんと違って漏らしたことはございません。あしからず。

大学時のサークルの同期で、合宿先の宿の布団に大きい方やっちまった猛者はいたけど。



最後の1コマに「漫画を描くようになって羞恥心が薄れた気がする」みたいなこと描いてあったけど、それ、歳のせいだと思う!



若いころより羞恥心が薄れてきたぼくがお送りしました。

ザ・ウォーカー(ネタばれあり)

ザ・ウォーカー


ねたばれあるんで気をつけてください。


























 男が旅をしていた。
 30年前の災いで荒廃した世界に残されたたった一冊の本を携えて。
 
男は強い信念のもとに旅をしていた。
 西へ、西へと。

 西へ、西への時点で気づくべきだった…
 
 映像とか、世界の描写はかなりかっこいいです。
 マチェットでのバトルなんか、メタルギアソリッドのヌルみたい。
暗い世界観を現すような光量の少ない映像も、雰囲気醸し出してます。
 
 どんな本なんだろう。
 世界を変えるほどの影響力がある本だなんて。

 あれ??なんか抹香臭いぞ…
 ま、まさかとは思うけど、アレじゃないですよね?
 そんな馬鹿な…

 聖書かよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ダビンチコード以来の非キリスト教からしたら「だから何?」なネタだよ、これ…

そうなんですよ。
「荒れた世界を一冊の本を携えて西へ旅する男」
まさにマニフェストディスティニー的世界じゃないですか。
見る前に気がつくべきだった…
ったら借りなかったのに。
たいそうな本の話というからには、ナウシカのシュワの墓所位のもの書かれてるの期待して見たのに、聖書って。
こないだのジーザス・キャンプばりの盲信者じゃない人たちでも、この結論には納得なんだろうか。
そんな大仰に言われることに違和感ないんだろうか。
まぁそこは大統領が聖書に手を置いて宣誓する国ってことか。
宗教に縁の薄い身には理解しがたい。

他が良かっただけに残念な一本でした。

ジーザス・キャンプ

 東京MXで放送してた時に見逃したので、DVDになったと知って気になってたドキュメンタリー「ジーザス・キャンプ」見ました。

 アメリカのキリスト教右派の、特に福音派の事については最近テレビでも創造博物館のこと等が取り上げられてたりして、日本でも知名度上がってきてるんじゃないでしょうか。

 ざっくり言えば、作中に出てくる牧師さんの「完全なる世界はキリストが支配している世界」という言葉が言いあらわしてる原理主義者の集まり。
聖書に書いてあることは全て事実だ、と考える人々です。

 全編通してこの女性牧師さんが主催する集会の話です。冒頭、かなり豊満な体型の彼女の説教を見たら絶対つっこむと思う。

キリスト教徒は堕落してしまいました。食欲に負け…」

 とりあえずあんたがまず痩せろ。
 まぁ原理主義なんていちいちつっこんでたらキリないけど。

 その女性牧師は言います。
「子供を利用すべきよ!」
 ということで信者の子供を集め、夏はキャンプに誘い、はっきり言って洗脳していきます。
 かるくホラーです。
 こうして育った子供たちが大人に、盲信的な子どもを育ててしていく。子どもを学校に行かせず、自宅学習を選択する家庭の内75%が福音派だとか。その理由も、学校に行けば聖書と違う内容を教えるから等の宗教的な理由をよく聞く。
 こんなことを続ければ、アメリカはここから転ぶんじゃないだろうかと思う。
 いや、21世紀初頭の事件以来アメリカはまさに宗教でつまずいてるわけだけど。
 
 まぁどこの国にも何らかの宗教に盲信してる人間ってのはいるだろうけど、人口の25%、8000万人がこんなにも急進的な一派ってのはまずくないですかね…
 しかもその宗教が、自分の宗教だけが正しくて他はダメなんて考え方のモノだとしたら悪夢以外の結末が思いつかない。

 こういうのを見ると、塩野七生さんの言う通り、人類の諸悪の根源はあらゆる原理主義、自分の考え方(宗教、生き方、その他諸々)だけが正しくて、他のものは間違ってるって発想なんじゃないかと改めて思えてくるドキュメンタリーでした。

しかし、この番組、MCのお二人のコーナーが無いとかなり雰囲気違うなぁ。
あそこまで含めてDVD化して欲しかったな

ラスト・サムライ

昨日やってましたね、ラスト・サムライ。結構好きです。
つっこみ所は満載ですが、まぁ要はサムライかっけー!忍者かっけー!って映画なわけですからあんまり気にしないで楽しんじゃいます。
しかし昨日の放送はカットひどすぎると思う。お願いしますよ、日テレさん…

テレビでは「ハリウッドが描く幕末」みたいなコピーついてたけど、実際映画見ると幕末というよりは西南戦争前夜の方が時代的に近いような。
太政官政府と、その近代化政策に反対する武士集団のバトルがメイン。
サムライとの小競り合いで捕虜になったアメリカ軍人(トム・クルーズ)が武士の暮らす村でサムライというものや日本の文化に触れていく話。

つっこみ所が満載って書いた通り、いろいろ言い出せばキリない。
だけど、映画という制限の中でサムライ、あくまでカタカナのサムライだけど、とサムライの戦のカッコよさを表現して、さらに海外に発信するには、日本人だけじゃ無理だったんじゃないかと思う。
といっても、日本の映画なんてって話ではありません。
日本人にはそれが自国の歴史であり、さらに戦国と並んで人気のある、ということは乱世である幕末から西南戦争に至る時期であるがゆえに、思い入れが強すぎで、あのような大胆なデフォルメはできないのではないかと思うのです。
愛しているからこそ、日本人にはああいうものは作れないんじゃないだろうか。その愛がつっこみという形をとって感想に溢れるわけで。
そこを映画としてまとめるためにぶった切るには、やっぱり外国からの目が必要だったんじゃないかと思う。特にアメリカとは当時は勿論、その後もいろいろと濃いお付き合いになるわけだから、なかなか適役なんじゃないかな。

そういう意味では、日本人が南北戦争ベトナム戦争を描いたりするのも当事者とは違った視点ができてイイかも。
もしかしたら塩野七生さんのローマ人の物語を読む快感も、当事者たるヨーロッパ人たちだけでは書きえない視点にあるのかもしれない。